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 連載しているショートショート物語の4回目で、これが最終です! お話の1回目は「こちら」から。


◇        ◇

(前回から続く)

 チョガルに意識が戻ると、平原の地平がぼんやりと目に入ってきた。

 周りには何人もの兵が倒れていたが、とうに息絶えて、その皮膚は黒ずんで乾いていた。
 チョガルは、自分がずいぶん長く昏睡していたことが分かった。草がそよぐほかは、物音や人の声もなかった。戦は終わったみたいだ。

 そして自分はここに打ち捨てられ、もはや立ち上がる力もない。
 あとは、生気が完全に消え去るのを待つだけ。それで終わりだ…。


 間もなく、チョガルはひどい喉の渇きを感じた。
 腰の水筒に手をやると、ほんのわずかな水が残っている様子だ。それと兵糧の団子も、かじりかけの最後の1個が残っていた。

 これを口にすれば、もう少しの間だけは生きていられるかもしれない――。そうチョガルは思った。



 すると、すぐ近くで、かすかなうめき声がするのに気が付いた。

 チョガルは、倒れた格好のまま頭を向けてみた。そこには、1人の敵兵が、仰向けに横たわっていた。
 敵兵といっても、チョガルと同じようなみすぼらしい雑兵で、自分の親ほどの年代の男だ。彼も息絶え絶えで、体を起こす力さえ残ってそうもなかった。

 その目はこちらを見つめ、哀れみを乞うように光っていた。
 そして唇をわずかにパクパクと動かしていた――。彼は、食べ物が欲しいようだ。


 チョガルは、おぼろげな意識の中で考えた。
 いま持っている、ごくわずかの水と食べ物――。自分が食べようが、彼が食べようが、いずれにせよこの状況では、どちらも死んでしまうに違いない…。
 その結果を選ぶことはできない。

 でも自分が、「与えずに」死んでいくのか、それとも「与えてから」死んでいくのか――
 チョガルにとって、その間には途方もない違いがあるように感じられた。
 そして、そのどちらにするかは、自分で選べることも分かった。



 チョガルは、自分の体を何とか転がすようにして、その倒れた敵兵の男に近づいていった。

 そして水筒を男の口元に当て、残っていたわずかな水を滴のように流し込んだ。
 団子もちぎって、口に入れてやった。

 男はそれを力なく噛み、命を受け取るようにゆっくりと飲み込んだ。
 横たわった男の目から、涙が幾筋もこぼれ出た。


 「自分が持っている最後のものは、与えるためのもの」――
 チョガルの心の中に、母親がよく口にしていた言葉が、まるで母親がそばにいるように聞こえてきた。その声が彼をねぎらい、癒すように包み込んだ。

 そしてチョガルは、平原の空に向けて、こう語りかけた。

 「私は、自分が何者であるかを、最後に選ぶことができました。
 私が選んだのは、『与える者』になること!」――

 その言葉は、小さな雑兵のものとは違う、魂からの高らかな宣言だった。



 重い足音が近づいてくるのが聞こえた。
 振り向くと、鎧姿の敵方の武士がそそり立っていた。そしてチョガルを見るや、大きな太刀を両手で振り上げて構えた。

 食べ物を与えてもらった男は、その武士を制止するように、声にならない声を上げた。
 しかし、太刀は一気に振り下ろされた。

 次の瞬間、チョガルは、自分の首が地に転がるのを見た――


◇        ◇

 結びのヒーリングミュージックは、Peter Kater & Snatam Kaur「Carry Me」。

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 前々回の記事から連載している、ショートショート物語の3回目です。

◇        ◇

(前回から続く)

 チョガルたち農民兵の一隊は、何日も歩き続け、国の最果てである戦の地に着いた。

 そこは、人の住めないような不毛の平原だ…。
 隣国との間に位置するという理由だけで、この何の役にも立たない一帯を、国同士が血を流して奪い合っているのだ。


 戦はずっと膠着していた。敵軍勢と距離を置いて向き合い、長くにらみ合いが続いていたため、双方とも極度の緊張で疲労していた。
 チョガルたちが到着するや、有無を言わせず戦列の前方に立たされた。

 すると間もなく、敵側から開戦を告げる嚆矢(かぶらや)の音が響いた!
 雄たけびと砂ぼこりを巻き上げながら、何百、何千もの軍勢がこちらに向けて突進してきた――。


 敵味方の兵がぶつかり合い、ぐちゃぐちゃに入り乱れた。
 金属が当たる音や鈍器で殴る音、すさまじい怒号と悲鳴に包まれ、鮮血が散り、人が次々に倒れていった。

 チョガルは、槍を半分構えるような格好で、ただおろおろしながら周りを見渡していた。
 自分がどこにいて、何をやっているかも分からない状況だ。錯乱した世界の真っただ中に、ぽつんと放り込まれたみたいな感覚だった。


 死はあちこちに転がっていた。
 その中を、武器を手に勢いよく立ち回る者がいたかと思えば、次の瞬間にばったり倒れて息絶えた。生と死の境に、一切の距離というものがなかった。

 戦の地では、生と生とが激しく打ち当たり、残されていくのは莫大な数の死だけ――。
 そして、その1人ひとりの死の中に、特徴的な意味のようなものはまるで見当たらなかった。

 どの兵にも、自分ならではの生い立ちがあり、家族もいたはずだ。それぞれに違った暮らし方、食べ物の好み、やっていて楽しいことや、こうなりたいという望みもあっただろう。
 でも戦では、そんな真実は全く何一つ見えない。無名で非人格的な死が、打ち捨てられるようにあるだけだ…。


 チョガルは突然、背中から全身を貫く激しい衝撃を感じた。
 背後から槍で突かれたのだ――。そのまま横倒しに転がったところに、今度は側頭部をガツッと硬いもので殴られる鈍い音がした。

 そしてそのまま、目の前が闇の中に消えていった――
(次回へ続く)

◇        ◇

 結びのヒーリングミュージックは、Aeoliah「The Light of Tao」。

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 前回記事からの続きで、ショートショート物語の2回目です。

◇        ◇

(前回から続く)

 戦に向かうチョガルたちは、まず都の外れにある大きな教練所に集められた――。

 その場所には、領内の各地から徴集された数千人もの農民兵たちがいた。
 チョガルと同じ年ごろの少年から、親の年代くらいの中年までさまざまだが、いずれも貧しそうな身なりの者ばかりだ。

 そこで数日間、武器となる槍の手ほどきを受けた。
 もちろん、そのくらいでまともな戦力になるはずもない。でも、チョガルたちのような雑兵に求められているのは、「数の兵力」の1人になることだけだ。それに付け足し程度の武力があれば十分なのだ。


 季節は、農作物の収穫が終わった秋。
 教練所の広場の周りには、枯れかけた野草の茂みが広がり、冷えた風に吹かれてサワサワと音を立てていた。
 そのところどころに、バッタが飛び跳ねていた。この虫たちも、間もなく寒くなるころには命尽きてしまう――。

 チョガルはその姿を眺めて、自分の運命に重ね合わせた。


 農民兵たちが集められ、教官が一同に大声で語った。

 「これから我々は、戦の地へと向かう。多くの敵を討ち取って、功を上げるのだ!
 功が大きければ、国の大領主様より褒美が与えられる。農民兵から武士(もののふ)となって、多くの兵を率いる役に就いた者もいる。

 虫は、生まれながらに虫でしかない。獣も、その獣以外の何者にもなれない。
 でも、人は違う。人は、自分が何者になるかを、自ら選ぶのだ。
 さあ、功を上げよ!!」


 人は、自分が何者になるかを、自ら選ぶのだ――
 チョガルはこの言葉を、頭の中で繰り返した。でも、武士(もののふ)になるのは、自分の選びたいことではないとも思った。


 戦の装備が配られた。
 槍に、薄い鉄板の陣笠と胴鎧、そして携帯する兵糧の団子に水筒――、などである。
 でも体が小さいチョガルにとって、槍は不釣合いに長く、胴鎧もぶかぶかで、多くの兵の中でもとりわけ弱々しく見えた…。

 そうして、戦の地に向けた行軍が始まった――
(次回へ続く)

◇        ◇

 結びのヒーリングミュージックは、Laura Sullivan「Sunrise On Cloud Palace」。

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 台湾に4日間の家族旅行に行ってきました。
 北京・上海・香港は以前に訪れたことがあるけど、台北は初めて。大陸の大都市に比べると、雰囲気や気質がとても「日本に近い」という印象ですね。

 街のあちこちにセブンイレブンとファミリーマートがあって、店内には「コアラのマーチ」やら「なっちゃん」やら、日本のかな書きの商品がそのままびっしり並んでいる…。
 日本のお家芸といえば家電製品と自動車だったけど、今やコンビニとお菓子なのかな。


 で、今回はショートシートの物語です。

 聖書に、貧しい寡婦がわずかな有り金すべてを神殿の賽銭箱に入れて、それを見たイエスが「彼女は誰よりも多くを入れた」と語る話があります。
 では、有り金とは言わず、最後に残された命までをすべて投じたならば…と思い、ちょっとお話を考えてみました。

 全体をネットで読むにはやや長そうなので、4回くらいに分けて載せますね――。


◇        ◇

 チョガルは、まだ顔つきもあどけない、16歳の少年だった。

 清流をはさんで田畑が広がる、都から離れた村に、母親と2人で暮らしていた。父親は数年前に、隣国との戦に兵として駆り出され、そこで殺されてしまった。
 チョガルの家は、小規模な農作と手工芸を生活の糧としており、暮らしぶりは楽ではなかった。


 この地域には、自分の食事を少しだけ食べ残すという、古くからの風習があった。
 粗末な食事でも、困窮している時でも、必ず少量を食べ残して、それを薄紙に包んで家の外や屋根の上にパッと放り投げる――。それが自然の生き物への施しになり、天への供え物になると信じられていた。

 「自分が持っている最後のものは、与えるためのもの」。母親は紙の包みを放りながら、よく口ぐせのようにチョガルに言い聞かせた。

 自分が持っている最後のものは、与えるためのもの――
 そうは言われても、若いチョガルにとっては、そのわずかな食べ物でも自分の口に入れたい気持ちはやまやまではあったけれど…。


 ある日、領主からの通達が来て、村の会合が開かれた。
 隣国との大きな戦が再び始まり、兵となる男をこの村からは10人送り出さなくてはならないとのことだった。

 進んで戦に行こうとする者は誰もいなかった。村にとっても、これだけの働き手が出て行くことは非常に大きな痛手だった。
 村人たちの話し合いの結果、人選は村の長に一任することになった。村の長はやむなく、10人を選んで名を読み上げた。


 16歳のチョガルも、その1人に選ばれてしまった。

 体が小さく気弱な彼にとって、戦に行くことは死を意味するに等しかった。
 母親は、すでに夫が戦で亡くなっていることを訴えたが、聞き入れられなかった。何しろどの家も、状況は似たようなものだったから…。

 そうしてチョガルは、故郷の村を離れ、都の向こうに連なる山々のさらに彼方にある見知らぬ地へ、兵の1人として赴くことになった――。
(次回へ続く)

◇        ◇

 結びのヒーリングミュージックは、Ian Boddy & Erik Wollo「Reverie」。

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 今回も、スピリチュアルなショートショートのお話です。

 スーパーで買いものをしているときに思い浮かんだもので、いつもよりちょっと長めかもしれませんが、まとめて1回で載せますね。


◇        ◇

 安住ハルナは、駅前のスーパーで、レジのパートとして働いていた。
 大学を出て、今は26歳になるのだが、超氷河期といわれる就職事情の中で、これまで思わしい勤務先には巡り合えなかった。すでに3回の転職を経て、半年前からこのパートの仕事に就いている。

 スーパーの近くには、重い知的障害者のための支援施設「あさがお生活園」がある。月に1度、その施設の障害者たちがスタッフに連れられて、スーパーに「お買いもの体験」にやって来る。
 それが行われるのは、平日午後の来店客が少ない時間帯。今日はその日だった――。


 店内に入った知的障害者の中には、声を上げてはしゃぎ回ったり、床にへたり込んで動かなくなったり、ただ無言のまま車椅子に乗っている人がいたりと、その様子はさまざまだった。年代も、十代後半の若者から年輩者までいた。
 何人ものスタッフが、1人ずつの手を引いている。用具を詰めたリュックを背負いながらあちこち行き来して、とても大変そうだった。

 手のすいた時間帯なので、ハルナはレジに立ちながら、あさがお生活園のお買いもの体験を眺めていた。
 その中の1人が、買いものかごにチューブ入りのホイップクリームとイチゴを入れている。
 ケーキをデコレーションして、皆でおやつに食べるのだろう。

 「きっと、とても楽しみなんだろうな…」と、ハルナはほほえましく感じた。


 そうしていると、1人の中年女性がレジに来た。手には袋入りの菓子パンを1個持っていた。

 「いらっしゃいませ」と、ハルナはあいさつした。
 するとその女性は、食ってかかるような口調で言った。「ちょっと、これ、見てみなさいよ! パンに指で押した跡が付いているでしょ。あの人らがやったのよ」と、障害者たちのほうを横目で目配せした。

 ハルナはすぐに、「申し訳ございません。きれいな商品とお取り替えしますので」とわびた。

 ところがその女性は、「いやいや、私はこれを買うわけじゃないの。文句を言いにきたのよ」と切り出した。「買いものに来たら、あんな人らが何人も店の中をうろうろしているものだから、ギョッとしちゃったわ! この店は、一体どういうつもりなの?」


 ハルナは応えた。「施設のスタッフの方が付き添っていますし、ご迷惑にならないよう私たちも気をつけていますから」。

 すると女性は、口調を強めて言い寄ってきた。
 「ほかの人たちはあえて言わないみたいだけど、私がはっきり言うとね、ああいう人たちがいるだけで迷惑に感じるのよ。見た目にもかなり何だし、大声を出したり、手で品物を触ったり…。私たちはお客なのよ。そのお客が気持ちよく買いものができないって、どういう了見なの!」


 ハルナは、花粉症予防のために付けていたマスクを外した。そして、胸の内に噴き出てくる言葉を、何も考えずそのまま口から発した。
 「あなたのほうこそ、すぐに出て行ってください!! そんなに迷惑なら、他の店で買えばいいじゃない。あなたのような人に売る商品は、ここにはありません!」

 若いパートタイマーの思わぬ反撃に、苦情を言ってきた女性は一瞬ひるんだ。
 でもすぐに、ハルナが付けている名札に目をやり、わざとらしく落ち着いた調子で言った。「安住っていう名前なのね、分かったわ。お客に対してこんな無礼な態度を取るなんて、店の本社に名指しでクレームを入れておくわ。あなたみたいなパートなんて、すぐクビになるわよ!」

 「どうぞお好きに」と、ハルナは返した。


 すると、「ちょっと聞き捨てならないね」と、いつの間にかレジに並んでいた初老の男性が口をはさんできた。そして中年女性に向かって言った。
 「あなたね、レジのおねえさんの言っている通りだよ。それにね、私らが当たり前のようにしている買いものでも、あんな重いハンディのあるあの人たちにとっては、まるで夢のような経験だし、たいへんな冒険でもある。そんなふうに、考えたことないでしょう」

 中年女性の客は、わけが分からないという顔をして言い返した。「あなたは関係ないでしょ!」

 すると初老の男は「いやいや、関係は大ありだね」と答えた。そしてその女性客を目で見据えたまま、顔だけレジに立つハルナのほうを向けて言った。
 「僕は、気持ちよく買いものをしようと思ってここに来た。ところがレジに並んだら、社会良識がなくて人間性の欠落した、手前勝手なことばかり主張するオバはんがいる! こんな迷惑な人間を店内に受け入れるなんて、どういう了見なのか。この店に文句を言いたいね」 


 その中年女性の客は、言葉の出ないまま唇をワナワナ震わせ、そしてクルリと背を向けると、店の扉から出て行った…。

 その後ろ姿を見送った後、ハルナと初老の男は顔を見合わせた。
 何だか、ちょっとした「戦友」のような、互いのつながりを感じた――。


 すると初老の男が言った。
 「ところで、そのつぶれたパンをどうするの? 何だったら僕が買うよ」

 ハルナはあわてて、「いえ、そんなことまでしていただかなくても…」と返した。
 男は続けた。「でも、売り物にならないからって、処分しちゃうんでしょ。別にあの子らだって、悪気があって指で押したわけじゃない。そのせいで捨てることになるなんて、ちょっとしのびない…。
 たまたま僕は、パンを買うのを忘れていた。僕は膝の調子が悪いから、この広い店の中をまたパンの売り場までも戻るのも面倒だ。だからそれを買うのがちょうどいい」

 「そうですか、有難うございます! じゃあ、こちらの商品も」と、ハルナは好意を受け取り、パンをレジの読み取り機に通した。
 その男性が買ったのは、焼き魚弁当、ノンアルコールビール、そしてジャムとクリームとチョコが入った3色パン。どう考えても、最後の1品だけが不釣り合いに余計で、わざわざ買い取ってくれたことが明らかだった――。


 おつりを受け取りながら、男は不意にこんなことを口にした。
 「さっきのオバはん…、実は天使なのかも知れないな」

 「えっ!? ど、どういうことですか」。ハルナは驚いて声を上げた。
 初老の男は言った。「僕は10年近くこの店によく来てるけど、いつも黙って買って帰るだけだ。定年退職者だから、家の中でもほとんど話すことがない。
 でも、今日はずいぶん違う日だ。自分の中で長年じっとしていた大事なものが、突き動かされた気がする。
 パンとあのオバはんお陰かも知れないね。小さなつながりが世界を動かし、人の中身を掘り起こしていく…」


 さっきからずいぶん変わったことを言う人だと、ハルナは思った。夢だとか、冒険だとか、天使だとか。きれいな絵空事みたいな言葉を、よく気後れせず口にできるものだ。
 そもそも、そんなかけがえのないものが、この駅前のスーパーなんかに…。

 その時ふと、ハルナのハートをかすめるものがあった。
 何だかとてつもなく大事な、人生50年分くらいの気付きのヒントが舞い降りたような気がした。


 その男性客は、片足をちょっと引きずるようにして、店の出口に向かった。
 すると次に、あさがお生活園のスタッフが、若い知的障害者の手を引いてレジにやって来た。

 そのスタッフの人は、パンの袋を手に、申し訳なさそうに言った。
 「すみません。これ、この子が指でギュッと押して、つぶした跡が付いたんです。これは買わせていただきます。でも実は、他にも同じように触ってしまったものがあるみたいなんですけど、探しても見当たらない。きっと誰かが買っていったのかも…。もしそのクレームがあったら言ってください。こちらで弁償しますから」

 ハルナはにこやかに答えた。「大丈夫です。心配なさらないでください」


 そのスタッフに手を引かれていたのは、ハルナと同じくらいの歳かもしれない、目の小さな女性だった。ずっと無表情にうつむいていたが、一瞬ハルナのほうを見た。
 その、もの言わぬ眼差しの奥に、何かを与えてくるような光を感じた。

 ハルナは思った。
 ――そうか、あなただったのか。今日の、私のこの世界を、大きく動かしてくれていたのは! しかも、その指1本で――。


◇        ◇

 今回のヒーリングミュージックは、この分野のベストセラーであるSteven Halpern「1st Chakra」

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プロフィル

Koudai Mitsuna

Author:Koudai Mitsuna
 
光奈 広大(みつな・こうだい)

 20年のあまりのサラリーマン生活を経て、いわゆる「ザ・マネーゲーム」を何とか卒業。今では束縛されない自由な日々を存分に味わっています!

 そうした中で心がけているのは、普通の日常的な行いを通じて、意識の進化を目指す「カルマ・ヨガ」。

 日々の喜びや学び、インスピレーションから得たスピリチュアルな気付きなどをブログで紹介しています。

 妻子と都内在住――。





http://facebook.com/koudaimitsuna

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